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東京高等裁判所 平成6年(ネ)4699号 判決

主文

原判決中、同判決主文第二項に係る第一審原告らの請求(地役権設定登記手続請求)を認容した部分を取り消し、右部分に係る請求を棄却する。

第一審原告らの控訴及び第一審被告らのその余の控訴を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを三分し、その一を第一審原告らの、その余を第一審被告らの、各負担とする。

理由

【事実及び理由】

一  当事者の求めた裁判

(第一審原告ら)

1(第一審原告らの控訴の趣旨)

(一) 原判決中、第一審原告ら敗訴部分を取り消す。

(二) 第一審被告らは、第一審原告らに対し、原判決別紙第二物件目録(一)ないし(三)記載の物件を除去せよ。

(三) 第一審被告らは、第一審原告滝口、同馬場のそれぞれに対し、各自一〇万円支払え。

2(第一審被告らの控訴の趣旨に対する答弁)

第一審被告らの控訴を棄却する。

3(訴訟費用)

控訴費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。

(第一審被告ら)

1(第一審被告らの控訴の趣旨)

(一) 原判決中第一審被告らの敗訴部分を取り消す。

(二) 右部分に係る第一審原告らの請求を棄却する。

2(第一審原告らの控訴の趣旨に対する答弁)

第一審原告らの控訴を棄却する。

3(訴訟費用)

控訴費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。

二  当事者双方の主張

当審における当事者双方の主張は、以下に従来の双方の主張に敷衍するほか、原判決事実摘示中の各主張と同じであるから、これを引用する。結局、当審において当事者が主張するところは、原審以来されている従前の主張に関してされた原判決の認定判断について非難するにとどまるものである。当審においては、かかる主張中若干の点は、後掲理由中の当該事実認定の箇所において認定判断の際に考慮に入れ検討を加えるものとする。

(第一審原告ら)

1 妨害物排除について

(一) 本件通路は、本件土地(原判決別紙図面(三)(以下「図面(三)」という。)上の、あ、い、う、え、あ、の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分・一一〇七番二〇の土地)とこれ以外の関係各土地の一部が持ち寄られて形成されており、その南北の幅員は、図面(三)によれば、本件通路西側端付近で三二四センチであり、以前にはトラックが通行しており、家屋の建て直しや引越しの際にはトラックによる通行が必要である。第一審原告会社の場合、家屋が現に建て直し時期にきており、トラック等の大型車両で通行する差し迫った必要性がある現状からしても、本件通行地役権は、トラック等の大型車両による通行を特に除外したものと解すべきでない。

(二) しかるところ、原判決別紙第二物件目録(以下「第二物件目録」という。)(一)記載の物件(原判決別紙図面(一)、(二)(以下「図面(一)」、「図面(二)」という。)に斜線をもって示すコンクリート製構造物)は、坂道の一部を、駐車場とするために不自然に平坦にし、その結果、本件土地の東西両端において、本件土地を除くその余の通路部分との境目に著しい段差を生じさせているところ、この段差のために、本件通路を自動車で通行する場合には車輪がスリップし、自転車で通行する場合には転倒の危険が生じ、歩行する場合には通路全体の通行が困難になっている。

(三) 第二物件目録(二)記載の物件(図面(三)の〈1〉ないし〈6〉記載の駐車場用支柱穴及び支柱)は、穴から引き出して地上に立てて使用する駐車場施設の一つであり、その本来の用法に従って使用されているときには、本件土地の通行は車による通行は勿論、徒歩による通行も困難となっている。

(四) 原判決が第一審原告らに本件通路の通行地役権があることを認めるのである以上、第一審原告らの通行を危険、困難にさせている第二物件目録(一)記載のコンクリート製構造物及び同目録(二)記載の支柱穴及び支柱の除去請求をも容認されるべきである。本件土地全部に通行地役権が認められる以上、仮に、第一審被告らのいうように、本件通路には本件土地以外の他の所有者の土地が含まれその部分の通行も可能であるとしても、本件土地上に障害物を設置して、本件土地内の通行妨害をすることは、通行地役権の侵害として許されず、本件土地上に設置された妨害物は排除されて然るべきである。

(五) 本件通路に設置された妨害物件のうち、特に、本件通路内の土地上に設置されたコンクリート製構造物は、本件通路の幅員、この物件の通路内の設置位置・場所、その規模等からみて、明らかに意図的に本件通路の従前からの通行を敢えて阻止ないし障害としようとするために、第一審被告らにより設置されたと認められる妨害物件であるところ、従前から本件土地には通行地役権が設定され通路の用に供されていることを十分承知の上で本件土地を買い受けて所有権(共有部分)を取得した第一審被告らは、前記第一審原告らの通行地役権に基づく本件通路の従前からの通行状況を著しく妨害する構造物だけは撤去するべきである。したがって、原判決が正当に認定判断するとおり、第一審被告らは、最小限度、右コンクリート製構造物だけは撤去して右通路内の通行妨害を排除するべき義務がある。

2 慰謝料について

第一審被告らは、平成元年一月初旬ころから、同年六月ころまで、殆ど毎日、しかも、終日、本件通路の幅員一杯に、自動車二台を並列駐車させ、もって、第一審原告らの本件通路の通行を妨げ、その後前記本件各物件(コンクリート製構造物、支柱・支柱穴)を相次いで設置したものであり、これによって、第一審原告滝口及び同馬場は、著しく精神的苦痛を受けた。これを慰謝するには、少なくとも右各人につき、一日当たり一〇〇〇円をもって相当とする。

3 通行地役権設定登記の欠缺を理由にその対抗力を否定する正当な利益を有する第三者にあたるかについて

第一審被告らが本件土地の共有持分取得とともに各自の前記単独取得の建売住宅付の各土地を購入した際の重要事項説明書には、売買対象物件として本件土地の地番(一一〇七金二〇)と面積が明記され右地番の土地が「公衆用道路」と明記されており、売手の不動産販売業者・株式会社マルトウハウジング(以下「マルトウ社」という。)の担当社員から市道へ出る通路として売却する旨の説明を受け、また、現地で右通路とその北側の一一〇七番二五の土地と同番二〇の土地と通路との境界付近にマルトウ社が設置したブロック塀が存在していたのも現認したうえで本件土地(共有持分)を第一審被告らで購入、取得したものであり、第一審被告茂松はマルトウ社に対し、同被告宅の駐車場を設置するためその撤去を要求したところ、同社は奥の住人らの通行を妨害しなければ構わないと応答したので、入居半年後に本件右ブロック塀を撤去して本件駐車場を設置したものであると述べるが、マルトウ社の担当社員であった証人石原の証言によれば、一時的な駐車のためならよいが常駐の駐車場としては使えない趣旨を説明したというのである。今となっては、いずれが正しいか断言できないとしても、前示土地の従前からの使用状況、形状からしても、単独購入で自宅の敷地と同じように独占的に使用ができる土地とは、およそ認識してはいなかったものである。したがって、第一審被告らは、本件通行地役権設定の登記の欠缺を理由にその対抗力を否定しうる第三者にあたらないというべきである。

(第一審被告ら)

1 通行地役権についての登記の欠缺を理由にその対抗力を否定しうる第三者にあたるかについて

本件通路につき通行地役権設定の合意が訴外小野と訴外三栄との間で黙示的にせよ成立したと原判決が認定した昭和四一年五月一二日当時はもとより、第一審被告らが本件土地(一一〇七番二〇の土地)、同番二五、同番二六の各土地を購入した昭和六三年一一月の時点でも、本件通路から同番三、同番二二、同番二三の各土地を経て東側に通路(甲第二号証の二の黄色部分)が通じていたから、第一審被告らとしては、本件通路が一一〇七番三、同番二二、同番二三の各土地から市道に通じる唯一の通路だったとは理解していなかった。また、本件土地(一一〇七番二〇)の登記簿上の地目は「公衆用道路」とはなっておらず、「宅地」とされていたから、第一審被告らは、右土地を宅地として買ったものである。したがって、第一審被告らは、いわゆる背信的悪意者ではなく、第一審原告らが本件通行地役権設定の登記を経由していないことを理由にその対抗力を否定する正当な利益を有する第三者にあたる。

2 通行妨害の有無について

本件通路上に設置された物件は、東方の奥地の同番二一ないし二三の各土地から市道への通行にとっては、本件通路全体の幅員、従前からの通路の使用状況等からみて、夜間と昼間との駐車場の使用方法の工夫いかんなどすれば、これを撤去しなければならないほどの著しい通行妨害物件ではない。

三  証拠関係《略》

四  当裁判所の判断

当裁判所も第一審原告らの請求は原判決認容の限度で理由があるものと判断する(ただし、通行地役権の登記請求については後記のとおり、これを認容しない。)が、その理由は、以下に付加、補足するほか、原判決理由説示(登記請求については除く)と同じであるから、これを引用する。

原判決掲記の各証拠並に同判決認定の事実、《証拠略》を照しみれば、以下のとおり認められる。

1(本件通路沿いの土地の位置関係とその所有権取得の経緯)

(一)  第一審原告ら及び第一審被告らが所有する一一〇七番三、一九、二一ないし二三、二五、二六の各土地(原判決別紙第一物件目録(以下「第一物件目録」という。)記載(一)、(二)、(四)ないし(八)の各土地)及び本件土地(第一物件目録記載(三)の土地、一一〇七番二〇)は、元一筆の土地(一一〇七番三・「元番の土地」)であった。

(二)  右各土地の位置関係は、原判決別紙図面(四)(以下「図面(四)」という。)のとおりであるところ、本件土地は、図面(三)上の、あ、い、う、え、あ、の各点を順次結ぶ直線で囲まれた土地であり、同図面のあ、えの各点を直線で結んだ線からさらに南方の縁石の線付近までの間の土地部分は、一一〇七番一七の土地(訴外田中所有土地)の一部であり、この土地部分と本件土地は、同図面表示のとおり、その西側に接する市道(「本件市道」)から東方の奥地に向かうのに通行する通路となっており、右通路は、さらに、一一〇七番三、二二の各土地の南端部分を経て、その東端は一一〇七番二三の土地の東南端に達するまで伸びている。

2(本件土地(承役地)についての通行地役権設定の合意とその後の要役地の所有権移転とその経緯)

(一)  訴外依田は、昭和三九年五月、元番の土地(千葉県《中略》一一〇七番三)の所有権を取得し、右土地を整地して宅地化し、本件市道から右元番の土地方向に入るための通路として、現在の通路とほぼ同じ場所に通路を設置し、付近の関係土地の住人の通行の用に供するようになった。

(二)  訴外小野は、昭和三九年六月三日、訴外依田から元番の土地を買い受け、その所有権を取得し、これを住宅地として分譲することを計画し、昭和四一年五月六日、元番の土地(一一〇七番三)から分筆前の一一〇七番一九と本件土地(一一〇七番二〇)とを分筆のうえ、右分筆後の元番の土地(一一〇七番三)を自己の所有に留保し、訴外三栄に対し、右分筆された二筆(なお、右分筆後の一一〇七番一九の土地上には、右分筆前に訴外小野がアパートを建築した。)を右土地上のアパートと共に同月一二日、訴外三栄に売却した。

(三)  訴外小野は、昭和四一年一〇月二九日、分筆後の元番の土地から同番二一ないし二三の各土地を分筆し、右土地上に各一棟の建物を建築した。その後、訴外小野は右分筆後の土地のうち、二一の土地を地上建物と共に昭和四二年八月に訴外尾形源二に売却し、同土地はさらに中間取得者一名を経て平成元年三月に第一審原告会社へと順次売却され、これにより第一審原告会社が所有権を取得した。

(四)  訴外小野は、右元番(一一〇七番三)の土地から分筆された各土地のうちの同番二二の土地を地上建物と共に昭和四三年六月一一日訴外八木原信三に売却し、同土地はその後中間取得者一名を経て前所有者より昭和五三年一一月二七日に第一審原告滝口にそれぞれ売却され、これにより第一審原告滝口がその所有権を取得した。さらに、訴外小野は、同番二三の土地を昭和四一年一〇月三一日訴外浜田善幸に売却し、その後順次中間取得者四名を経由して昭和六一年一一月一九日、第一審原告馬場が競落し、これにより、第一審原告馬場がその所有権を取得した。

3(本件土地(承役地)の所有権取得と本件通路(共有持分)の承継的取得)

本件通行地役権の承役地である本件土地は、分筆前の同番一九の土地及び同地上のアパ-トと共に、訴外三栄から中間取得者一名を経て昭和六二年一〇月二二日訴外株式会社丸東工務店に売却されたが、その後右アパ-トは取り壊された。次いで、訴外丸東工務店は、昭和六三年九月九日、分筆前の同番一九の土地から同番二五、二六の各土地を分筆し、同番一九、二五の各土地上に建物を建築し、同年一一月三〇日、本件土地及び二六の土地の各持分を第一審被告らに売却し、一九の土地を第一審被告政竹に、同番二五の土地を第一審被告茂松に、それぞれ売却し、これにより第一審被告らは、各自がそれぞれ取得した宅地と共にこれら宅地に接して存在する本件通路の敷地たる土地の所有権(共有持分)をも取得した。

4(本件通路の設置と通行地役権の設定)

(一)  訴外三栄は、右土地売買の際、売却対象土地のうち本件土地について、訴外小野が自己に留保した分譲予定地である右分筆後の元番の土地への通行の用に供するために(もっとも当時は、北方向へ本件関係土地以外の他人所有地を事実上通り抜けて公道に出られはしたが、右通り抜道は土地所有者が明白に通路として通行の用に供しているという形状のものではなく事実上私有地の中を歩行者が通り抜けるのを黙認していただけの状態であり、この事実上の通り抜け道は、その後土地所有者により通り抜けできないように閉鎖されてしまい、それ以後は本件土地が南方向の公道(本件市道)へ通じる唯一の通路の用に供されるようになった。)、通行地役権を設定する旨の明示ないし少なくとも黙示の合意をしたものと推認される。そして、右分筆による売却後、本件土地は、平成元年(本件紛争発生時)に至るまでの間、外観上一見して通路の状態である。なお、訴外丸東工務店は、昭和六三年一一月三〇日、分筆前の一一〇七番一九の土地から、同番二五、二六の各土地を分筆したうえ、同番二六及び本件土地(同番二〇)の各共有持分を第一審被告らに売却すると共に、第一審被告政竹に同番一九の土地を、第一審被告茂松に同番二五の土地を、それぞれ売却し、これにより、本件通路の敷地部分は、第一審被告茂松と第一審被告政竹が共有持分を取得するに至った(各土地の位置関係は、図面(四)(甲第二号証の一の公図)に表示のとおりである。)ことは、前示のとおりである。

(二)  その間には、本件土地は、訴外三栄から中間取得者一名を経て訴外丸東工務店に、訴外丸東工務店から第一審被告らに売却されたが、右各売却のいずれの際にも、本件通路たる土地が公衆用に供された通路である旨の説明がされ、重要事項説明書や売買契約書にもその旨が記載されており、この説明により第一審被告らは、いずれも各自が買い受け各自の共有持分を取得する土地持分が宅地ではなく、従前から通路用地として他の近隣の土地(要役地)の所有者らにも通路として使用させている土地であることを認識了解し、実際の現状を見ても右土地購入の際の形状、使用状況からして、右持分取得土地が一見して通路であることは容易に分かったであろうし、それ故、第一審被告ら各自の居宅とその敷地とともに右居宅敷地に接しさらに東側住宅地から市道に出るための通路に供されている右通路敷地部分たる本件土地をも、通路としての用に供するために共有で取得したものと推察される。

(三)  もっとも、本件土地の登記簿上の地目は公衆用道路とされず当初からのままの宅地とされていたが、そうだからといって通路でないということはできず、第一審被告ら及び第一審原告らが前記の経緯で取得した各土地の買い受けの際には、その重要事項説明書中に、本件土地が公衆用道路として利用されていることが明記されており、また、第一審被告らが共同で本件土地の持分を取得し、本件市道から右元番の土地方向に入る部分を取得した当時の本件通路の形状上継続して明白に通路に供されている土地として、第一審被告らが取得した各自所有の宅地使用の便益のため通路として提供され利用されるばかりでなく、第一審原告らのほかの近隣の関係土地の住人等公衆の通行に供されている通路となっていることを認識ないし観察し、かつ、売主側から説明されて、十分認識、了解のもとで、これら土地を取得したものと推認される。

(四)  以上にみた事実関係からすれば、本件土地を含む本件通路は、遅くとも訴外依田所有時代の昭和三九年ころには設置され、右通路設置当初からほぼ同じ幅員のまま外観上一見して通路の状態で、本件市道から東方奥地の住宅地へ入る通路として、その両側の土地所有者や付近住人により使用されてきたものと認められる。

5(本件通行地役権の取得とその対抗要件について)

(一)  以上にみた事実に原判決認定の事実並びに弁論の全趣旨をも合わせみれば、第一審被告らは、いずれも、前記の経緯で本件土地につきなされた合意(少なくとも黙示の合意)によりその設定が認められる通行地役権の負担のあることを十分に承知して右通路に沿って存在する宅地と共に右通路であることが明白な状況にある本件土地(承役地)を共同で買い受け前記各自の共有持分を取得するに至ったものであり、また、第一審原告らは、いずれも本件土地に通行地役権が設定されていると説明され、かつ、その形状、利用状況等をみて、これがあるものと信じて各自の宅地(要役地)を購入しその所有権を取得すると共に前記設定済の本件通行地役権をも承継取得したことになる(民法二八一条一項)。そして、第一審原告らには本件通行地役権の設定登記は経由されていないが、第一審被告らは、第一審原告らに対し、右通行地役権設定の登記が経由されていないことを理由にその対抗力を否定し得る正当な利益を有する第三者であると解することはできない。そうすると、第一審原告らは、第一審被告らに対し本件通行地役権を主張することができるから、第一審原告らそれぞれと第一審被告らとの間においては、第一審原告らがそれぞれ確認を求めている内容の通行地役権を有するものといえる。

(二)  しかしながら、そのように、第一審原告らが第一審被告らに対して本件通行地役権をその登記なくして主張しうる者であると認められるからといって、他に特段の登記原因がないのに、第一審原告らの第一審被告らに対する本件通行地役権の設定登記請求権が生じ、それ故、直ちに第一審被告らが第一審原告らに対して地役権設定登記をなすべき義務があるとまではいえないはずである(この点において原判決が、第一審被告らが本件通行地役権設定登記の欠缺を理由にその対抗力を否定し得る正当な利益を有する第三者に当たるとすることはできないとした認定判断は相当であるが、さらに、第一審原告らが第一審被告らに対して本件通行地役権設定の登記手続を請求するには、何らかの登記原因、その他特段の事由があることを要するところ、さらに進んで、そのような登記原因があるか否かを検討することなく、右にいう正当な利益を有する第三者に当たらない第一審被告らに対する本件地役権設定の登記請求を直ちに容認するに至ったのは相当でないといわなければならない。)。

6(本件通行地役権設定登記請求の登記原因について)

そこで進んで、本件訴訟において第一審原告らは、右地役権設定の登記請求の登記原因として、本件通行地役権の取得時効とこれを原因とする地役権設定登記を請求しているので、この点につき検討する。

(一)  ところで、一般に通行地役権の時効取得が認められるには、当該通行地役権が継続かつ表現のものであるものに限られる(民法二八三条)ところ、右通行地役権が「継続」の要件を満たすには、要役地の所有者によって承役地となる土地の上に通路が開設されたものであることを要すると解するを相当とする(最高裁昭和二八年(オ)第一一七八号同三〇年一二月二六日第三小法廷判決・民集九巻一四号二〇九七頁、最高裁昭和三一年(オ)第三一一号同三三年二月一四日第二小法廷判決・民集一二巻二号二六八頁)。これを本件についてみるのに、前記事実関係によれば、本件通行地役権の設定を合意し右通路が開設されたのは、訴外小野と訴外三栄の所有当時であり、承役地たる本件通路の土地は、前記経緯で第一審原告らにより取得されるまでは要役地の所有権取得者が通路を設置、管理、保存等の行為をしてきたことはなく、単に、要役地から市道方向へ出るための通路として通行利用してきたにすぎないのである。これを要するに、本件通行地役権が本件通路沿いの要役地のために設定された時期より遥かに遅れて前示の経緯で分筆、分譲された本件通路沿いの土地(要役地)を購入、取得した第一審原告らにおいて右通路を設置したものでないことは明らかである。そうすると、第一審原告らは、本件通行地役権を時効取得する要件を具備していない者であるというほかないのである。

(二)  以上によれば、第一審原告らから第一審被告らに対して、通行地役権の時効取得を原因とする本件登記請求は、時効取得の要件を具備しないから、その旨の登記原因がないことにより、理由がないことに帰する(なお、第一審原告らは、要役地を前所有者から買い受けて所有権を取得しこれに伴い本件通行地役権を取得したから、これにより、当然第一審被告らに対して地役権設定の登記請求権が発生するとして、これを原因とする地役権設定登記請求をもしているようであるが、右第一審原告らの主張によっても、せいぜい、通行地役権が要役地を買い受けて右土地につき所有権移転登記が経由されたことに伴い、第一審原告らは、承役地取得者たる第一審被告らに対して登記なくして通行地役権を主張できることになることを認めるべきというにとどまり、そうであるからといって、他に特段の登記原因がないのに当然に第一審被告らに通行地役権の設定ないし移転の登記手続を請求できることになるわけではない。)。

7(妨害排除請求及び妨害予防請求について)

当裁判所も、〈1〉第一審原告らが第一審被告らに対して、本件通行地役権に基き、第一審被告らが本件通路に設置した物件のうち、明らかに第一審原告ら及び市道から本件通路の東方奥地の住宅地に住む者らが各自の所有地から右市道方向へ出るのに本件通路の通常の通行を妨害する意図をもって第一審被告らにおいて敢えて設置されたものと推認せざるを得ない第二物件目録記載(四)の物件(すなわち、図面(三)の青色部分のコンクリート塀)だけはその排除を求めることができるが、その余の物件のうち第二物件目録記載(一)の構造物(すなわち、図面(一)、(二)に斜線をもって示された通路上に敷かれたコンクリート製の構造物)は、通路の構成物となっており、これを剥がして撤去した場合の方が通行の安全が害される虞が生じるであろうことが察せられるのであり、また、同物件目録(二)記載の物件(すなわち、図面(三)の〈1〉ないし〈6〉の合計六個の駐車場用支柱穴及び支柱)や同目録(三)記載の物件(すなわち、図面(三)のカーポートと表示された駐車場の屋根のうち、赤斜線部分(ア、イ、ウ、エ、ア、の各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分))については、概ね第一審被告らの居宅敷地内に設置されており、若干通路側へ出た部分があるとしてもそれらの使用方法やその余の本件土地部分さらには通路全体の幅員、通路設置当時からこれまでの形状、利用状況等を考えれば、右物件自体が従前からの本件通路の通常の通行(すなわち、本件通行地役権の内容としては、本件土地を徒歩・自転車により通行することのほか、住宅地において日常生活の用に供される普通乗用車程度の大きさの自動車による通行の限度で許されるものであることは、原判示のとおりである。)を妨害するものとして、通行地役権者たる第一審原告らから承役地所有者(共有持分権者)たる第一審被告らに対して右物件の除去を求めることまでも容認することはできないと判断する(なお、第一審原告らは、本件通路の通行は、本件土地を自転車、普通乗用自動車程度の大きさの自動車により通行することのほか、引越、建物の建替等の場合に、資材、荷物等を運搬するに要する貨物自動車等の大型自動車による通行もその内容とされて然るべきと主張するが、この点については、当裁判所も本件通路の従前からの住宅街における存在位置、形状、利用状況等からしても、原判示と同じ内容の限度のものにとどまるものと判断するのであって、右第一審原告らの主張を採用しないものである。)。

その他、本件通路の通行についての妨害予防請求は、従前の第一審被告らの妨害行為があった事実、本件通路をめぐるこれまでの紛争の態様、第一審被告らの態応、使用状況等に鑑みる限り、原判示と同様の理由により妨害の予防の趣旨としての本件妨害禁止請求は理由があるから、この請求を認容してよいものと判断する。

8(慰謝料請求について)

第一審原告滝口及び同馬場の慰謝料請求については、本件全証拠によっても、本件土地の通行、利用状態に双方に争いが生じたことから、第一審被告らが暴言を吐いたり、一時期、所有宅地を超えて通路に自動車を置くなどした行為に出たことがあったと窺われるとしても、そのような行為によって第一審被告らが前記第一審原告らに対して損害賠償しなければならないほどの不法行為に該当するとまでは認められないことは、原判決の説示するところと同じである。

五  よって、第一審原告らの本訴請求中、通行地役権設定の登記請求を除くその余の請求については原判決認容の限度で理由があるが、右登記請求は理由がないことに帰する。そうすると、双方からの各控訴に基づき、原判決中、主文第二項に限り取り消し、右部分に係る第一審原告らの請求を棄却し、第一審原告らの控訴及び第一審被告らのその余の控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、九三条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 伊藤瑩子 裁判官 佃 浩一)

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